第3話 ”仕事”の価値
「ううっ…お、重い…」
シンは仕事をしていた。
大きな麻袋を引きずるようにして運んでいる。
「あと3つな」
その横を同じ袋を3つ抱えたアロウがすたすたと通り過ぎていく。
やや細身ともいえる見た目の割には、力も結構あるようだ。
雨続きの午前中、アロウとシンは町の倉庫街で荷運びの仕事をしていた。
馬車で到着した荷物を、倉庫の指定された区画に運び込んでいく。
一台分でいくら、という仕事。
特に身元を問われない手軽な仕事ではあるが、重労働のためシン一人ではとても請け負えないものだ。
アロウから割り当てられた個数を運び終えた時には、シンはへとへとになっていた。
荷主に報告をしていたアロウが報酬を手に戻ってくる。
「ほら、お前の分。」
アロウは床にへたり込んでいるシンに、手のひらにのせた硬貨を見せる。
そのうちの数枚を取ってシンに渡そうとした。
「…それ、どうやって分けたの?」
シンはじっと手のひらの硬貨を見つめる。
灰色っぽい硬貨は銀貨で、茶色っぽい硬貨は銅貨。
シンにはその両替比率はわからないし、計算も苦手だ。
だからといって警戒心を忘れたりはしない。
報酬をちょろまかす依頼主が多いことくらい、シンは知っている。
眉を寄せて硬貨を見つめるシンを見て、アロウはふと表情を緩ませた。
「銀貨は大体銅貨10枚分。報酬は銀貨3枚と銅貨2枚だ。」
自分の財布から銅貨を取り出し、銀貨1枚と銅貨10枚を取り換え床に並べて見せる。
「俺はお前の3倍は運んだから…」
言いながら銅貨の山を均等に4つに分け、1つ分の山をシンの方へ押しやる。
「これがお前の取り分。銅貨8枚。」
実際は銀貨は銅貨7枚分くらいだし、アロウの運んだ量はシンの軽く5倍を超えていた。
だが、アロウはしれっと嘘をつく。
シンに有利な嘘を。
物価の相場感覚から違和感は感じるかもしれないが、嘘と言い切れるほどでもないラインだ。
積まれた銅貨をじっと眺めた後、シンはアロウを見上げておずおずと切り出す。
「あんたの部屋…今日も借りれる?」
「いいぜ。特に支払いが増えるわけでもなし、銅貨3枚ってとこだ。」
あっさり答えるアロウに、シンの表情が明るくなる。
「ほんと!?じゃあこれで貸して!」
そう言って受け取った銅貨から3枚掴んでアロウに押し付ける。
「約束だからな!あとで"なし"とか言うなよ!?」
「あ、ああ」
なんとなく約束を反故にする相手ではない、という気はしていたが、シンは念を押す。
勢いに押されてアロウが硬貨を受け取ると、シンは立ち上がった。
「ボク、ちょっと出かけてくる!部屋、約束だぞ!」
「えっ!?おい、この雨でどこに…」
「すぐ戻るから!」
アロウの問いを置き去りに、シンは倉庫を飛び出した。