第3話 空路がダメなら?
「本当に申し訳ございません!!」
ウィルノー魔導進学塾の新任講師、アリシア・ヒューストンは必死に頭を下げていた。
ここは飛空艇発着場のターミナル…その警備員室の一角、小さな会議室のようなスペース。
ミラはソファに座ってまだぐすぐすと泣いている。
アリシアが気づいた時、ミラは2人連れの旅行者と話していたようで……何かあったのかと大声を上げてしまったのだ。
結果、全員揃って警備員室でそれぞれ事情を聞かれることになった。
一通り事情を聞かれて誤解であることがわかり、アリシアは真っ青になって謝っていた。
なにしろ相手は見上げるような大男。
しかも…
ちらっと見上げると、見下ろしてくる目がまず怖かった。
鋼のような色の瞳には青い影がさし、顔立ちは彫りが深く、そして頬には大きな傷。
まるで"その筋の人"、だ。
誤解で警備員室に連れて行かれるなんて、ただでさえ立腹しているだろう。
どんな報復をされるか…
「気にしてない」
意外なことに、彼は興味なさそうに短く答えた。
目を丸くしているアリシアに、横から顔を出した連れの男性(にしては綺麗だけど…)はあっけらかんと言い放つ。
「ボクは面白かったからいーよ。ターミナルの普段見れないとこに入れたし!」
「…お前はもう少しいろいろ気にしやがれ」
ぼそっと大男がツッコんだ。
…なんとなく分かった。
この人は怒ってないというか…怒るのも面倒なくらい疲れている、ということが。
「ところで、キミたちも飛行艇に乗り遅れたって本当?」
人懐っこそうな銀髪の男性が興味津々といった感じでアリシアに尋ねる。
「あ、はい。実は…」
誤解した手前、事情の説明は必要だ。
しかし大柄の男の方は興味はないとばかりに黙って壁に寄りかかり、魔導通信端末をいじりはじめた。
正直その鋭い眼光にさらされないことにホッとしつつ、アリシアは先ほどミラから聞いた話を簡単に説明する。
「私たちはターミナルで待ち合わせしていたんですが、あの子…ミラが途中で事故に遭った猫を助けて動物病院に駆け込んでいたらしくて」
「へー優しい。ね、アロウ」
銀髪の彼は振り返って大柄な男性の方へ振り返る。
彼の名はアロウというらしい。
「自分で選んだことなら、泣くことないだろ」
すげない言葉が返ってきてアリシアは息を呑んだ。
後ろでミラがまた「ふえぇ…」と泣きだす。
アロウはそっぽを向いてしまった。
アリシアはムッとして、さっき感じたそこまで悪い人じゃないかも?という評価を心のなかで即座に訂正した。
と、眉をひそめるアリシアの横を銀髪の青年がすり抜ける。
彼はミラの前にしゃがみ込むと、目線を合わせて優しく問いかけた。
「どうしてそんなに泣いてるの?」
「だって……しけん…」
「うん、試験?学校のかな?」
首をかしげる男性に、アリシアが説明する。
「あ、私たちは進学塾の受験対策の合宿に行くところで、本番の試験が4日後なんです。」
「あーなるほど、来週の便じゃ間に合わないね」
ふむふむ、と頷いて彼はミラへ再び尋ねる。
「試験受けたい?」
問われてミラがびっくりしてまばたきしながら彼を見る。
「……試験、受けれる?」
「わからないけど…他の方法、探してみない?」
「他の?」
「そ。空がダメなら陸で行けるかもでしょ!」
にこっと彼は笑い、ミラに告げる。
「ボクはリル。ちょっとだけ手伝ったげる。キミは?」
そしてミラに手を差し伸べた。
「………ミラ。ミラ・ストレイフォード…」
おずおずと差し出された手をリルはそっと握ると優しく引き上げ立ち上がらせる。
「よしミラ。まずは鉄道時刻表を調べてみようか!」
ミラには他にどんな方法があるかなんてぜんぜんわからなかった。
でも、リルの不思議な緑の瞳に見つめられると、なぜだか大丈夫だ、という気がした。