第5話 便利屋コンビ、アロウとリル

「全国便利屋事業者協会・東方支部のクロード・バルクロフトと申します。いわゆる冒険者組織の者です。こちらは秘書のメアリ・アルモニア」
そう言って初老の紳士クロード氏はアリシアに名刺を差し出した。隣で秘書のメアリが会釈する。
慌ててアリシアも胸ポケットから名刺を取り出した。
「あっ、ウィルノー魔導進学塾のアリシア・ヒューストンです」
それぞれが名刺交換をしている間に、アロウが隣のテーブルから椅子を持ってきてセッティングしている。
大人が増えてなんとなく居心地の悪いミラに、リルが「アロウの上司、つまりお偉いさんだよ」と説明した。
全員が席についたものの、突然現れた第三者には、ミラだけではなくアリシアも戸惑いの色を隠せない。
頭の隅をよぎったのは、最近話題となっていた「困っている人間に業者を装い、法外な金額をだまし取る劇場型詐欺」のニュースだった。
「よろしければ協会の窓口へ通信していただいて結構ですよ」
クロードが見透かしたように苦笑して告げる。
アリシアは「…では念の為、失礼します」と通信端末を取り出す。
生徒を預かっている以上、慎重に動かなければならない。
と、その時アリシアの端末が振動して着信音が鳴り響いた。
端末の画面を見ると、アリシアは表情を変えて急いで端末を操作し始める。
「…これは」
表示されていたのは、塾本部からの指示。
タイトルは『便利屋事業者協会との契約締結、およびミラ・ストレイフォードの移送について』となっている。
送信元は確かに自社の本部で間違いなかった。
一通り内容を確認して、アリシアはクロードに深く頭を下げた。
「失礼いたしました。本部からの連絡で確認が取れました。ミラさんを試験会場まで送っていただけるということですね?」
「そうです。彼、アロウは東方支部所属のエージェントです。個人契約で送り届けることも可能ですが…」
そう言ってアロウの方を示す。
「親御さんへのご説明も必要でしょうから、一旦協会を通しての契約としたいと、彼から申し出がありました。」
アリシアの視線を受けて、アロウは軽く会釈する。
…もしかして、警備室で通信端末をいじっていたのはこのためだったのだろうか。
外見だけで「怖い人かも」と決めつけていたことを思い出し、アリシアは頬が熱くなるのを感じた。
それに、怖いと思ったあの頬の傷は、仕事で負った傷なのだろう。
いたたまれない気持ちがこみ上げてくる。
「彼は現在では珍しい、剣を主体に戦う《ブレードフェンサー》です。今回のような護衛任務では特に力を発揮してくれます。ご安心を」
「あれ、リルさんは?行かないの?」
クロードの説明にリルの名前が出てこないのが気になって、ミラは隣に座るリルを不安そうに見上げる。
リルはというと、さっき使ったメモ用紙で紙飛行機を折っていた。気ままなその振る舞いにミラはもうすっかり馴染んでいた。
「リル君はフリーの魔術師でね、アロウ君のパートナーだ。仕事仲間なので一緒に行ってくれるそうだよ」
クロードの説明に、メアリが付け加える。
「彼は火魔法の上位免許所持者です。実力は折り紙付きですよ。」
「すごい」とアリシアが呟き、ミラはほっとしたようにうなずいた。
「よろしくね〜」
隣のリルが気楽な調子で手を振ってくる。
これからアロウとリルも加わって、みんなで一緒に旅に出るのだ。
いったいどんな旅になるんだろう?